14年以上続けた勤め人生活にピリオドを打って、どこにも所属しない身体になった。長旅の相棒にハーレーダビッドソンを選んでロスを出発、夢だったアメリカ大陸横断を慣行した。ノートパソコンを持参、モーテルでダイヤルアップでホームページを更新しながら、そしてネットで地図を検索しながら毎日300~500マイルは走った。雪で前進を断念、200マイル以上も引き返した。クラッシュアイスのような雹(ひょう)にも降られた。西から東へ、タイムゾーンが変わるたびに時計の針を一時間進めた。昨日まで見ず知らずのアメリカ人に「いい旅を」という言葉とともにハグされ、人の温もりを感じた。ニューヨークで折り返し、今度は南下しながら再び西海岸を目指す、今度は時計の針を一時間ずつ戻しながら。メキシコ湾沿いを走って海の蒼さを再認識した。旅の終わりに、一人モーターサイクルを走らせながら大粒の涙を流した。溢れた涙は風圧でヘルメットの中に流れ込んだ。
僕にとって『初めての経験』の連続だった今世紀初頭。あれからもう9年が経とうとしている。
イラストは2001年5月、2ヶ月半に及んだ旅も終わりに近づいたこの日、カリフォルニアとの州境に近いアリゾナのローカル・ルート60号線で見た光景。初めての雑誌連載の為に仕上げた一枚である。振り返って過去を懐かしむのではなく、しかし初心を忘れずに、一歩一歩前進してゆきたい。