まだ僕が小学校に入学する前だから1960年代のお話し。母親と祖父母に連れられ出かけた横浜市の『こどもの国』は、遊園地というよりも緑豊かで巨大な公園。池や牧場なんかもあって、そのスケールに圧倒されたのを覚えている。そこでもっとも僕の興味をひいたのが園内を走るゴーカート。ドアのない小さな車体とそれをぐるり一周カバーするバンパー、小さな車輪、そして街行く当時の乗用車よりずっとカラフルなボディーカラー。しかし子供の目から見てもそのゴーカートはあきらかに本物のクルマであった。たぶん自分が小さ過ぎたからだろうか、それに乗れなかったのが非常に悔しかったことも鮮明に記憶している。
時は流れて数年前、カーラジオからその『こどもの国』のゴーカート、いやクルマの話題が唐突に流れてきた。旅先でたまたまキャッチしたローカルFM局の番組でクルマの雑学トピックとして紹介されたのはざっとこんな内容だった。
1)『こどもの国』で1965年から73年頃まで子供が運転出来るクルマが走っていた。
2)そのクルマは『コニー・グッピー』という市販車をベースにしたスペシャルカーだった。
3)排気量200cc、前進1速、後退1速のオートマ車だった。
帰京して『コニー・グッピー』をネット検索してみると、おぼろげだったあのツードアクーペそのままのシルエットをもった小さなクルマの画像を見つけることが出来た。その懐かしくも愛らしい姿をしみじみ眺めながら、幼なじみに出会ったような気分になったものだ。
さらに月日は流れて2009年の6月28日、静岡エコパスタジアム駐車場で開催されたイベントの会場で、運命の再会は果たされた。数年前からこの国産旧車を対象にしたミーティングイベント『ナカヨシ・ホットオールズミート』には、イベントのチラシにイラストとデザインを提供している他、僕の発行するフリーマガジンからもアワードと称してささやかな賞を差し上げているのだ。今年もそのアワード車輛選出の為、雨のそぼ降る会場をウロウロ、悪天候にも関わらず満員御礼、この日集まった450台ものヴィンテージ・ジャパニーズを一台一台見て回っていた。数多く含まれる軽自動車のどれよりも小さな車体、赤いボディーカラーも手伝ってひときわ目立っていたのが、綺麗にレストアされたと思われる見事なコンディションの『コニー・グッピー』だったのだ!
早速オーナーのF氏に突撃インタビュー、この車輛が僕の生まれるより1年前に愛知機械という会社によって製造された車体であること、オーナー自らが長い年月をかけてレストアしたこと、そして僕の記憶の中にあるあのゴーカートは、愛知機械から車体を譲り受けた日産が『こどもの国』に納入することを目的に外装を大幅にモディファイした『ダットサン・ベビー』というクルマであったということなど、たくさんの貴重な情報を伺うことが出来た。さらに、このバンパー一体の鉄製ボディーは全てオリジナルであること、サスペンションはダブルウィッシュボーン、ステアリングはラック&ピニオン、オートマチックトランスミッションも量産車としてはほぼ初めて搭載されていた、など当時としては極めて先進的なものであったと伺い、あらためてこのクルマの凄さを思い知る。
子供だけでなく大人にとってもクルマが、自家用車がまだまだ夢だった時代に、こんなクルマが作られ、そしてあろうことか遊園地のゴーカートとして子供用にも供され、夢を与えていたのだと思うと、なんだかとても暖かい気持ちになるではないか。
今回はそんな思いのままに、イベントで再会を果たした『コニー・グッピー』をイラストにしてみた。
そうそう、肝心の ON THE ROAD MAGAZINE 提供のアワードだが、僕の独断と偏見によりこの『コニー・グッピー』を選ばせて頂いたのは言うまでもない。