大きなピックアップトラックやSUVに加え、誰もがイメージするアメリカ車の代表格と言えば「フルサイズ・セダン」。リンカーンやキャデラックなどの高級車もそれにあたるが、タクシーキャブや、ポリスカーとしてお馴染み、あの大きなセダンが、フルサイズとして最もポピュラーだと考える。
しかし、GM製のフルサイズ・セダン、シボレー・カプリスは90年代中頃に生産中止となり、最後の存在となっていたフォード・クラウンビクトリアも昨秋ラインオフした2012年モデルをもって生産終了となってしまったという事実をご存知だろうか?「ニューヨークのイエローキャブがニッサン製のミニバンになる」というニュースが先頃日本でも流れたが、アメリカン・フルサイズ・セダンの消滅がその主因なのである。
つい先日久しぶりに渡米した際、ラスベガス・エアポートのダラーレンタカーで2012年モデルのクラウンビクトリアを借り、ネバダ州からカリフォルニアはロサンゼルスまで、寄り道もしながら500マイル以上ドライブした。何年も前に乗ったクラウンビクトリアは、よくも悪くもアメリカの大型セダンらしい「ユルいクルマ」だった。しかし長年にわたり熟成された最終型は剛性の高いボディーやしっかりした足回り、トルクフルでありながら軽快に吹け上がる4.6リッターV8エンジンなど、実に快適で頼もしい旅の相棒になってくれた。
エコカーは言うに及ばず、アメリカでも主流になりつつある小型車と比べれば、大きく重く、経済性の面でも不利なフルサイズ・セダン。しかし時代遅れなこのクルマがとても多くの魅力を備えていることに、そしてこのアメリカ大陸でしか生まれ得ない唯一無二の存在であることに、今回あらためて気付かされた。消滅させてしまうにはあまりに惜しい、それが率直な気持ちである。